僕は今日もとて深夜に小腹が空いてしまいコンビニに向かう。欲しいもの数点をカゴに入れレジへ
「おきまりでしたらどうぞっー!」
随分と元気が良い店員だな。深夜バイトにしては珍しい。こうなったら僕も良い客を演じてやろう。
「あっお願いしまーす!」
礼儀正しくかつ元気よく、これが一番だ。
「お客様、困ります。きまってから来て下さい。」と店員が言う。
ん?この店員は何を言っているんだ。お互い元気よく気持ちよくお会計が出来ると思っていた矢先の出来事だったので酷くショックを受けた。
「あの〜ちゃんと決まっているんですけど…」
「何言ってるんですかどう見てもきまってないでしょう。」
僕はパラレルワールドのコンビニに来てしまったのだろうか。いやいや。わざわざ深夜に時間をかけてコンビニに来たというのになぜ門前払いされなきゃいけないのだ。きっとこの店員さんも疲れているのだろうな。ここは僕が大人になって寛容な姿勢で彼を受け止めてあげようじゃないか。
「あのー。僕この商品だけで十分なので、お会計お願いしてもいいですか。」
「うるせぇんだよ、お前きまってないだろ。どう見ても普通なんだよ。帰れ。お次おきまりのお客様どうぞー」
といきなり暴言を吐き出す店員。
流石に僕も我慢の限界だ。ここははっきりとこの店員のためにも声を荒げた方が良いだろう。と僕は決意を決めたときお次おきまりのお客様が僕の肩を押しのけてレジ前に割り込んできた。
「イッタッ、おい、お前…」と声を荒げようとしたが彼は即座に店員に注文を告げていた。
「サラダ油レギュラーで、アヘヘヘヘへへ」
その客の目は白目を向き、顔全体が大きく緩んでいた。また身体もどこか力が抜けたようなそんな印象を受ける。どう見積もっても尋常ではない。何かしら薬物などでキマってそうな様子である。ん?薬物でキマってる?
すると店員は
「はいサラダ油レギュラーですね。お会計100円になります!」と普通にレジを打った。
あの頭おかしい店員が応じている。なんだか嫌な予感がしてきた。
「お次おきまりのお客様どうぞー」
やはり次の客も薬物をキメてそうな見てくれをしていた。
「ゔゔゔゔゔゔゔゔゔなんかちょーだいよ」
こいつの目は虚ろだ。
その後も次々とやって来るおキマりのお客様達
…僕はその様子をただ呆然と眺めることしか出来なかった。僕は普通だ。かといって薬物をキメる勇気もない。こんなんじゃ買い物もロクにできない。社会で通用しないよ…。
そんな風に失意のどん底に暮れているところに後ろから声がかかった。
「おい坊主、どうしたそんなに落ち込んで」
それは渋く優しい声だった。
振り返ると髭を生やした浅黒い渋いおじさんがいた。
「そんなしょげた顔すんな、なんかあったか相談のるぞ」
「僕はあまりにも普通すぎる。こんなに普通だから買い物もできない。いっそのこともっとゆうきのある人間に生まれ変われたらって思っちゃうんです。そんなことできるわけないのに…」
「はは、それは面白い悩みだな。別に悩むことないと思うけどな」
「今の僕には到底そう思えません。キマれないんです。そういえばおじさんキマってるように見えないですけど大丈夫ですか?」
「はは、そうだ坊主!俺はキマってない。キマらないままこの歳まで生きちまった…。俺はもうキマれない。」
「じゃあ僕ももうキマれない…」
「それは違うぞ坊主、お前はキマれるんだよいくらでも。いいかお前はまだ若いんだこれからいくらでもキマれる。こんなじじいとは比べちゃダメだ。」
「ほんとにできますかね?」
「あぁ出来るさ。」
「ところでお前は何を買いに来たんだ?」
「あぁちょっと小腹が空いたんで(笑)」
「そっか、お前ならやれるよ。行ってこい」
「はい!」
僕は覚悟を決めた。精一杯キマってやる。薬物でキメなくても精一杯キマってみせる。僕ならキマれる。そしておじさんにもキマる夢を諦めないで欲しい。この買い物が成功したらそれを伝えよう。僕は普通じゃない。
「店員さん!決まりました。」
「は?またテメェかよ。帰れ。普通じゃねーか。」
「僕決まっただけじゃなくてキマったんです!」
「は?お前綿菓子、あんぱんまんチョコ、コスメ、ロリポップ、…普通なやつばっかじゃねーか。これでなにするんだよ」
「えとですねこれとケミカルxを混ぜてパワーパフガールズを作ろうと思ってるんですよねー。」
「参りました。お会計1829円になります。」と店員はかいけいを始めた。
僕はこうして決まったのだ。
………
「坊主やったな。パワーパフガールズを作るなんてよく思いついたな。その発想力ならいつか本当にキマれるよ。」
「いや、本当に作ろうと思ってたんです。砂糖とスパイスと素敵な物をいっぱい入れて、間違ってケミカルXを入れて!」
「え?」
「え?」
「お前さっき小腹空いたとか言ってたよな?うっわきっしょ。」