兄貴肌が恋しい季節に目覚めかけた

  今からする話は端的に気色の悪いものだ。先日バイト終わりに一つ上の男の先輩と酒を飲んだ。ビールをジョッキ二杯と日本酒をお猪口四杯ほど胃に入れた。私は酒があまり強い方ではないため酩酊一歩手前である。先輩もそこそこ酔っ払っていた。しかし私と比べたら大層酒慣れしているものだ。先輩は東京大学(専攻は忘れた)の四回生だが特に言葉に知性を感じることはない。でも会話が恐ろしいほど上手い。こちらが不愉快にならない程度に自分の話をして、ここぞというときに私に質問を投げかける。そして私の話を実に興味深そうに聞いてくれるものだからつい話が進んでしまう。まるで自分が女になって先輩とデートしているような気分であった。真のモテる男というのはこういう人のことを言うのではないだろうか。会話において相手に興味があることを見える形で示すことが何より重要なのだと、21歳にもなって初めて知った。

 酒を飲み始めて2時間ほど経ったときだろうか。「おまえ、終電大丈夫?」と先輩が聞いてきた。慌てて腕時計を見ると時刻は0時20分にもなっていて私の終電まであと20分弱といった時間だった。すぐにお開きをすることになり私達は店をあとにした。駅から15分程のところにあった居酒屋だったので当然終電に間に合うはずであった。しかしつい楽しくなってしまった私は先輩とゆっくり喋りながら歩いた。駅の改札口に着くとちょうどその瞬間、電車は出発してしまった。先輩が電光掲示板を眺め、そのことを察するとなんとも申し訳無さそうな顔をしていた。そんな顔を見ているとどうもばつが悪くなり、私は笑いながらネットカフェに行くことを告げた。すると先輩はおもむろに財布を取り出し、「すまん2000円しかないけど」と私にネットカフェの代金を差し出した。私はその躊躇いのなさに大きな器を感じた。もし私が女だったら酩酊したふりをして、ホテルまで連れて行ってもらおうとしていたことだろう。これは恋なのか?ちなみにその後普通にネットカフェに泊まった。

 私の人生には父性を感じる経験が欠如している。私の父は典型的な父ではない。父は私の言うことをすぐに否定して、寛容さがない。また兄貴も居ない。それ故にあの先輩の寛大な態度には惹かれた。しかし同時に父性に飢えていることに気付き落ち込んだ。私の慢性的な不足感の正体は心を委ねる場所がないことによる精神の脆弱性だった。かといって今更、父性を誰かに求めようとするのは気が引けるのだが。

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