大好きな作家の小説を読んで不幸になる

 僕は幸福になる天才だ。 僕は不幸になる天才だ。どんな幸福でも裏側にある不幸を読み解いて憂鬱な気持ちに浸ることが出来る。友人が僕にとって心地の良いことを言う。自分の思考を真剣に汲んでくれる友人がいないのは不幸だ。大好きな作家の新作を読む。大した友人も居ないで部屋の中で、空想にのめり込んでしまう自分は不幸だ。

  僕の知る限り、普通の人はこんな表情で電車に乗っていない。幸福を感じさせる笑みを見せる知り合いは須らく異性に溺れている。彼らは異性に溺れない僕を見下す。そして「溺愛のすヽめ」を寄越す。しかしそんな頼みの綱である異性でも裏にあるものについて考えてしまう。僕は溺愛者を不幸だと思う。溺愛者を侮蔑している。そんなものを馬鹿にできる自分は幸福だ。不健全な状態を幸福と錯覚するようなことにならなくて良かった。だけれどもそんな思考に陥ってしまったことを不幸にも思う。

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