僕は君を忘れない

 それは高校2年生のことだ。秋になり少し肌寒くなり皆がセーターを着出す頃、目前に迫った文化祭のことでクラスが浮き足立っていた。我が校の文化祭ではクラスの発表だけではなく体育館でやる有志の発表がある。定番なのはバンドの演奏やダンス、お笑いとかだろう。そこでクラスのお調子もの二人が名乗りを上げた。

 サッカー部のAと野球部のM、二人はあんま乗り気じゃなかった感じだけど周りの後押しもあって体育館でお笑いをすることになった。演目に選んだのが当時一躍ときの人となっていた「8.6秒バズーカー」のラッスンゴレライのネタだった。クラスでモノマネを披露すると、後押しをしてた奴らは大爆笑していた。僕は教室の隅でそれを傍観していた。確かにAが演じる田中シングルは振り切っていて面白かった。あくまで身内ノリだが。

 そして当日赤い衣装にサングラスを掛けた二人が舞台に立つ。ラッスンゴレライと手を叩くはまやねんに扮したM。そして「ちょとまってちょとまってお兄〜さーん。」とノリノリで前へ出てくるA。ところが体育館は文化祭にあるまじき静けさに包まれた。後押ししてた奴らは皆下を向いている。そうスベリ倒したのだ。私はこんな残酷なことがあっていいのかと呆れた。あれだけクラスで絶賛してたAの田中シングルをまるで初見のようなスタンスで奴らは傍観している。だけどもAは全力だった。とんでもない空気の中、終盤の「ちょちょちょっとまってうぉにさーん!」をフルスロットルでやり切ったのだ。一方Mはヘラヘラ笑っていた。

 終演後少ししてAをクラスの模擬店で見かけた。彼は既に田中シングル衣装から着替えていた。そして一目散に自販機まで行き一人で顔をくしゃくしゃにしながらエナジードリンクを飲み干していた。その君の姿が今でも忘れられない。友達でもなんでもないのだけれども。

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