ミトランティス市街、第14区にある喫茶店で僕はいちごジャムのトーストを齧りながら窓の外を見ていた。伝説の都ミトランティスは湖に沈んだと思われたが、中では当然のように日常生活が行われている。でも沈みかけているだけあって湿度が異常に高い。おかげでトーストの中はモチっと外はサクッとっで絶妙な感じになっている。僕は毎朝、開店と同時にこの店に来る。店主の態度は良くなく、「いらっしゃいませ」もない。コーヒーメーカーで淹れた可もなく不可もない浅煎りのコーヒーとトーストと苺ジャムを無言で持ってくる。かと思うと、カウンター席にいつも座っている常連と思しきおじさんには気さくに談笑していた。
「マスター今日はちょっと流れが早いね。」
「ええそうですね。1区あたりは沈んでいるじゃないですか。」
「そしたら儲けもんだよ。ハハッ」
「ちょっと〜不謹慎ですよ。」
ミトランティスは、いわばこれから伝説になる途中経過的な都市だ。沈めば人々から忘れられて、都市伝説上の都市になる。今はまだミトと呼ばれているのだけれども沈めばミトランティスとして伝説が始まる。もっともその事実を知っているのは外から来た僕だけで、この洪水とともに暮らす都市は当たり前のように存在している。
僕は都市伝説途上都市たるミトランティスを救うでもなく壊すでもなく傍観者としてただ居る。ミトランティスが始まるその時まで。