音楽を聴けるようになるまで①

 僕は音楽がとても好きだ。夜にお酒を飲みながら、好きな音楽を聴き身体を揺らす。その瞬間だけは僕は誰よりも楽しいのではないかという錯覚に陥る。一缶のビールだけで、バクバクとビートを刻むのが音楽を止めたときに分かる。情けないけど楽しい、そんな感覚になる。

 

 僕が音楽を聴き始めたのは遅かった。というのも音楽を聴くことがカッコいいことという感覚があるからだ。小学生のとき、流行りの音楽といえばGReeeeNAKB48あとはファンキーモンキーベイビーズとかだっただろうか。クラスのイケてるひとたちが聴いていた。一際覚えているのは、少年野球に入っていた3人組だ。彼らは今思えば早熟だったと思う。修学旅行に行ったときにはちんちんの毛がもっさりしていた。彼らは休み時間になると、歌い出す。一人は普通に椅子に座りもう一人は机に腰掛ける。もう一人は窓際にもたれかかり、歌う。ワン、トゥースリーのリズムのあとによくわからないハモリを入れながら。今の僕なら彼らのことを痛々しいと評価することが出来る。しかしながら当時はそれがカッコいいことなのだと思った。そして僕と彼らにある、イケ度合いの隔絶から「そういう音楽を聴き、楽しむこと」は「僕がしてはいけないこと」だと感じた。

 それから僕はアニメソングを聴くことにした。イケてる彼らが歌うGReeeeNと僕が聴く放課後ティータイム、アンチ的にそういう音楽を聴くようになった。そしてこの時に感じた「音楽はイケてる奴らのもの」という意識のせいで、今に至るまで人前で音楽を聞くことが苦手になった。ミュージック恐怖症とでも言うのだろうか。

 

 中学生になり僕はイケてるグループと仲良くしたいと思った。そんなときにクラスでアニメとかカードゲームにも精通している、不良を見つけた。そこを媒介にして僕はクラスのイケてるグループへの接触を試みた。作戦は驚くほど上手くいった。すぐに学校の不良に気に入られ(彼らは後に単車とかを乗り回すタイプの不良である)頻繁に遊ぶようになった。

 それに合わせて僕はPSPで聴いていた音楽を、当時の流行りの試聴手段であるWALKMANに移すことにした。ミュージック恐怖症の僕は、母親にWALKMANを顔を赤ながらおねだりした。「音楽を聴き楽しむことは恥ずかしいこと」そんな強迫観念が僕を支配していた。そして無事手に入れたあとにイケてる奴らのための音楽もCDを借りてそこに入れた。しかし誤算だったのは中学生にとってWALKMANは少し高価で注目されるものだったということだ。僕がそれを買ってもらったことを知るやいなや、不良が「使いたいから貸してよ」と言ってきた。不良様に逆らえるはずも無く、仕方なくそれを土日の間貸すことにした。事件が起きたのは週明けの月曜日だ。WALKMANに入った放課後ティータイムなどの僕が好きな曲を見た不良がこう言う。

「お前、もっとEXILEとかカッコいいの聴いたほうがいいよ。兄貴に頼んで入れてあげたから聴いてみ。」

この月曜日を機に、聴きたくもないカッコいい音楽を聴かされる日々が始まった。僕にとっての音楽暗黒期である。

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