歩くのは遅いしよく濡れる

  僕は、大学からの帰り道身体中のベタベタとした汗を気にしダボダボな半袖のTシャツの上下運動で衣服の中の空気を入れ替えながら歩いていた。気怠そうに歩く同じ大学の学生たちを横目に僕は淡々と歩いた。薄いんだか濃いんだかわからない雲を気にしていた。何人の学生に歩き抜かれたときのことだろうか、僕は半袖から露出する肌で水分を感じた、どうやら雲は濃かったらしい。前を行く学生達が皆慌てて傘を開いていた。今日は雨予報だったのだ。そんなことを知らなかった。僕はズボラなので毎日リュックサックの小さいポケットの中にこれまた小さい折り畳み傘を忍ばせてある。しかし今降ってるこの霧吹きみたいな細かい雨は僕には非常に心地よく感じられた。生憎僕には雨から守られるべき髪型も、化粧も、洋服もない。だから傘をささなかった。そんな調子で学校から駅までの道にある唯一の交差点まで歩いた。そこには僕を追い抜かした学生の何人かが止まっていた。青から赤に変わったばかりの歩行者信号を眺めながらそこにいる学生皆がぼーっとしている。気づけば僕の肌に着く水滴はかなり大粒なものに変わっていた。でも僕は焦らず、ゆっくりと折り畳み傘を取り出し開いた。信号は中々変わらない。この信号は実に遅い。車両側の信号が黄色表示になったときそこに居た学生の何人かが一目散に交差点を渡り始めた。そして遅れること5秒、僕もまた歩き始める。また何人かの学生に抜かされてしまった。これで何人目だろうか。そのときふと傘もささずに濡れることをただただ嫌そうにしている一人の女性が僕の目に止まった。彼女は傘をさしていないが僕みたいに雨を心地よいとは思っていないご様子である。タイトなTシャツに細身のズボンを身に着け、髪は綺麗な黄金色で僕はそれは守られるべきだと思った。守られるべきものが守られていないことの違和感はとても大きかった。交差点を渡り終えてからも彼女を凝視してしまう。足早に歩き駅に向かうにつれて小さくなっていく彼女をひたすら見ていた。彼女のTシャツは濡れたせいで肌に凄くくっついたり、綺麗にセットされたはずの髪の毛もなんだかへんてこになっていた。ああいう風に惨めにずぶ濡れになるのは僕みたいな守られるべきではない、歩くのが遅い人間だけだと思っていたが実はそうではないらしい。雨は平等に降りああいう輝く美少女も汚して惨めな姿にしてくれる。しかし今日の僕は惨めじゃない。こうやって小さい折り畳み傘をさしながら堂々と駅前の賑わいの中を歩いている。そんなことを考えて歩いているうちにもう彼女は見えなくなっていた。今頃あのずぶ濡れの体を恥じながら窮屈な電車に乗っているのだろうか。しかしそれは僕のカラッカラの体とは全く無縁の話だった。彼女が何を考えているか何て僕の知ったことじゃない。これから快適に本でも読みながら多少濡れた人間を睨みつつ電車に乗ろうと思う。そんな快適な電車に乗るため少し早歩きで駅の改札口を通り抜けた。

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