僕のミトランティス

 水戸駅近くを流れる桜川とその河川敷。その水面に東横インの青いネオンライトが反射する。会社からの帰り道は遅くなってもそんなワクワクがあった。夜のランニングに精を出すおじさんや河原で愛を囁くカップル、それら全てが見知らぬ都市に来た僕を歓迎してくれているように思えた。そしてそういった都市の風景は桜川に映って流れと共にゆらゆらと消えていく。だから僕はここをミトランティスと名付けて楽しむことにしたのだ。

 引っ越してきて半年、ミトランティスという架空の都市が段々と現実味を帯びた水戸になってきている。あれだけ特殊だった桜川の流れも今じゃただの通り道だ。この現状を「ピーターパン症候群を脱したぞ!」と好意的に受け止めるべきか、それとも「つまらない大人になってしまった」と嘆くかが悩みどころである。もうミトランティスには入れないのだろうか。

 仕事をサボることもなく泥臭く営業回りをし、疲れて泥のように眠る。休日は部屋の片隅に鎮座し、その姿はまるで泥団子のよう。生活が仕事に支配されている。僕が勤める会社はブラック企業と呼ばれる類のものだ。僕が会社を出る頃にはいつも22時を回っていて、尚且つ残業代もない。そして精神的に参った社員は次々と辞めていく。昨今ブームの持続可能性の逆をいく会社、泥舟に乗ったような気分だ。

 だけれど、この台風で荒れた天気の中を僕は悠々と車で走っている。一歩裸足で外に駆け出せば少年時代を思い出す事ができるだろう。あの時は猫のフンの匂いがするバッチい砂場で汚れまくったものだ。泥臭い営業も流石にフンの匂いはしない。泥だらけだがドロンコではない。ドロンコに憧憬を持つなんて、案外僕はまだまだ症候群真っ只中なのかもしれない。またミトランティスに行けるその日まで、子供時代のことを考えておくにしよう。

にほんブログ村 大学生日記ブログ 文系大学生へ
にほんブログ村 jQuery('.icon-hamburger').on('click', function() { if(jQuery('.menu-container .menu').css('display') === 'block') { jQuery('.menu-container .menu').slideUp('1500'); }else { jQuery('.menu-container .menu').slideDown('1500'); } });