彼のことを考える

 どうしようもなくシャイな男の子が営業マンとして働き始めてもうすぐ半年が経とうとしている。営業を始めてみて分かったのは契約を取るのはすごく気持ちが良いということだ。商談の作戦を考えてその通りにことが進んだとき僕は射精と同等以上のものを感じる。己の快楽を追求した結果、僕は配属された北関東で一番成績の良い新人になった。しかし困ったことに、そのせいで変に上から期待されてしまっている。そしてより責任の大きい仕事を与えられる。期待されてないから伸び伸び気持ち良くやれてたのに。最近は窮屈でとにかく仕事がキツい。期待に応えようという邪念が快楽を邪魔している。

 

 僕は東京の実家から就職を機に茨城県水戸へとはるばるやってきた。実家ではベランダに面していてロフトベッドが部屋の半分を占拠する、そんな部屋が自室だった。ロフトベッドの下には僕の腰くらいの丈の本棚と祖父母に買ってもらった長い付き合いの勉強机が置いてある。そんな部屋で僕は勉強をし架空の世界の妄想をして、飽きたらロフトベッドに登って自慰に励んでいた。それが僕の普通だった。

 水戸に来てから僕は時々あの部屋の現在を思い浮かべる。すると今でもあそこにはもう1人の僕が居てシコシコとやっている様子が目に浮かぶ。天井の落書きをぼんやり見ながら自分のうだつの上がらない毎日を悲観している。昼ごろ目が覚めて母親が作り置いてくれたチャーハンを当然のように食べている。

 就職を断念した世界線の自分が今も実家に住んでいるんじゃないかという錯覚によく陥る。そいつは僕の7倍オナニーするし、家事もろくに出来ない。きっとあんま苦しんでいない。呑気なやつだ。そしてきっと奴は僕の現状を知ったら羨ましがる。残業代もロクに出ないけど毎日やることをやって、それなりに認められている。誰にも期待されていないあいつに比べれば幾分かマシに思える。窮屈だけれどそれなりに楽しい毎日なんじゃないかと思えてくる。僕はしんどくなったときは彼のことを考えようと決めた。

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