9月の深夜のコンビニでありがちなこと

----------不思議な女性と出会う

  僕は深夜のコンビニで悶々としていた。性欲と疲れが溜まっていて身体は汗ばむし、この何度もリピートする店内BGMには良い加減うんざりしている。この後性処理をして束の間の快楽に浸ろうというモチベーションだけで夜勤を乗り切ろうとしている。にしても往年の人気JPOPをオルゴールアレンジしたこの店内BGMは本当に眠くなる。第一僕はその往年を知らない。JPOPが好きなミーハー女子がここに来て一曲一曲解説でもしてくれない限りこの店内BGMを気に入ることはないだろう。もう時期夏休みが終わるというのに僕に残されたのは傲慢な残暑とこのオルゴール音と夏休み中遂に一回も会わなかった意中の女性だけである。三つ目が残されてると感じてしまうのは私の愚かな希望的観測の所為である。本当は分かっているのだ。絶望的観測ではあの娘は僕を煙たがっている。彼女は僕が自室のロフトベッドの上でいつもしていることを知っているのではないか。スラッとした長い指を二本突き立てて微笑む彼女を想像しながら非道徳的な愉悦に浸っていることを悟られているのではないか。絶望的観測にはロクなことがない。こんなことを考えているうちに一回も聴いたことのないJPOPオルゴールバージョンの本来あるはずの歌詞が全て失恋の歌詞のように思えてきた。僕の絶望的観測における失恋を嘲笑うこのBGMに心底腹が立った。うちの店長の陰謀論を唱えてみたい。

  そんなことを考えていると自動ドアが開き、一人の女性が入ってきた。彼女は薄い黄色のポンチョ型のレインコートを着て、同じ色で揃えた偽物のクロックスを履いていた。外は多湿ではあったが雨など全く降っていなかった。熱を籠らせるポンチョを着た彼女は明らかにTPOに会っていなかった。しかし彼女はなんだか可愛らしかった。そのヘンテコでメルヘンチックな服装と不釣り合いな大人びた顔つきを僕は気に入った。細い目にスラっとした輪郭、決して一般的な美人という感じじゃないけど特別な魅力があった。高校生くらいであろうか。彼女は入ってすぐのところにあるかわいい熊のキャラクターの一番くじに引き寄せられてラストワン賞の景品を眺めだした。それは往年の人気キャラクターらしいがその往年に関しても僕は全然知らなかった。ラストワン賞を眺める大人びた横顔を僕はずっと眺めていた。大した業務がないのだ。10分も眺めている。20分も眺めている。僕は彼女に何か声を掛けてあげた方が良いのか迷った。もしかしたら彼女は一番くじの買い方が分からなくて店員にも何も聞けない程シャイな女の子なのかもしれない。ここは僕が親切に声を掛けてあげるべきなのではないか。普段バイト中にそんなことは絶対にしないけれど彼女のことを気に入っているからそうするべきなのではないか。色々考えた結果僕らしくないことをした。

「あのー。一番くじをご利用ですか。」と震えながら声を掛ける。

「駄目じゃないか。浮気なんかしちゃ。」それが彼女の店内に来てから初めて発した言葉だった。

「別にそういう訳ではありませんよ、唯々人助けをと思いまして。」

「そういう態度が良くないんだよ。君は知ってるかい?今頃あの娘は歓楽街である男に手を引かれているんだ。」

「あの娘って。」

「それはもちろん君の意中のあの娘だよ。永らく片思いをしてるあの娘だよ。アルバイトなぞしていいのかい。」

「あなたは何を知っているのですか?」

 

 これはあとから分かったことなのだけれども彼女はデウスエクスマキナだったらしい。僕のこの収集の付かなくなった迂回路を蛇行運転するような恋路を見かねて強引に物語を進めようとしていたらしい。大きなお世話さ。そんなものなくても僕は進むことが出来るのだ。その証拠にあの後アルバイトを抜け出してマキナと寝た。デウスエクスマキナは頬っぺたを膨らまして紅潮していたが、その様子を見て僕は征服欲が満たされた。僕は予定調和が嫌いなんだ。

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